Interview

2023.12.28

外川

「すべての建築設計や事業活動がまちづくりに紐づく」と語る地域に根差した不動産と建築設計の未来像

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「すべての建築設計や事業活動がまちづくりに紐づく」と語る地域に根差した不動産と建築設計の未来像

3.9 miles projectでは、銚子の挑戦インフラを創ることを掲げ、分散型ホテル構想の推進や様々な挑戦者と共に新しい場づくりや事業を展開しています。今回は、3.9 miles projectの代表であり大樹不動産株式会社代表取締役社長の渡辺と数多くの建築設計を手掛ける株式会社 no.555一級建築士事務所 建築家の土田先生との出逢いから生まれた本プロジェクトの構想の背景やその狙いについて聞いてみました。

「大きくても小さくても是非一件ご一緒させていただきたい」と直感した第一印象

・・・渡辺さんから見た土田先生の第一印象はいかがでしたか?

渡辺
土田先生のHPを見てスタイリッシュでオシャレな印象で、海外に色々行かれている印象で、まちづくりや建築設計に対するアプローチに惹かれるものがありました。

・・・普段、不動産オーナーとお仕事されることも多いと思いますが、土田先生から見て渡辺さんの印象はいかがですか?

土田
不動産経営をされている方の中でもこれだけソフトな人がいるんだという印象でした。直感的に感じたのは、とても芯が強く、熱いものがある。お仕事の垣根を越えて、個人的に人として魅力的で、面白い人だなと感じました。私たちも決して大きな事務所ではありませんので、一つ一つのお仕事を大事にしている中で、なるべく波長の合うお客様とお仕事をさせていただきたいなと日頃から思っています。その中で、大きくても小さくても是非一件ご一緒させていただきたいなと、試していただきたいなと、初めてお会いした時に感じていました。

・・・最初ご一緒されたプロジェクトはどのようなものでしたか?

渡辺
最初はこのambientでした。元々やる予定だったものを土田先生との打ち合わせの中で徐々に変えていきました。

土田
実は、もっと遡ると渡辺さんのお母様のご自宅の改修でご一緒させていただきました。ずっとお母様が使っていたお家を快適にしたいというお話があったので、「分割されていた各室を編集し直して第二のリビングみたいな場所を創るのはいかがでしょうか」と提案させていただきました。また、こちらのambientに関しては、渡辺さんを始め、プロジェクトメンバーの皆さんと話し合いをさせていただきながら、変化や進化をさせていきました。最終的には、このように外に開かれたオープンな空間として、この場所を活用して新たに挑戦したい人たちや地元の人たちが気軽に使えるスペースにしていくという風にまとまりました。

・・・実際にお仕事をしてみて、改めてお互いの印象、アプローチ、作品など惹かれるものはありましたか?

渡辺
常に期待や想像していたものを超えた提案をしていただきます。私自身のこうしたいといった意思を汲み取っていただいた上で、さらに良い場を創る設計を毎回やっていただいている印象です。

銚子の未来の姿を映す軸を定め、今後のデザインすべてがまちづくりに紐づく

・・・土田先生から3.9mile projectの構想が生まれたと事前にお聞きしましたが、経緯や着想の背景はどういったものだったのでしょうか?

土田
渡辺さんが銚子市のまちづくりについて、また、銚子への想いを強く持たれていて、銚子の今後(未来)を考える上で、今後も渡辺さんとご一緒させていただくプロジェクトは、必ずまちづくりに紐付けさせなければいけないと思いました。一つひとつの物件をどのようにデザインしていくかだけではなく、指針となるような銚子の今後(未来)の姿を映す軸を創ることが大事だなと思いました。そのため、プロジェクト名は分かりやすく、銚子らしくなくてはいけない、でもどこかちょっと一捻りあるようなネーミングにしたかったのです。

それこそ和泉さんが過去に銚子電鉄を救ったということも聞いていたこともヒントになりました。銚子電鉄がかつて若い青年によって救済されたという大きな歴史ですよね。そこで、電鉄系のネーミングを考え始め、距離を別の単位で言い換えられないかと思い、渡辺さんに提案をさせていただきました。そして今後はこのプロジェクト名から各プロジェクト(案件物件)を必ず関連させて創っていくという軸になっていったという感じです。

・・・この土田先生のお話を聞いて渡辺さんは当時いかがでしたか?

渡辺
即答で「これでいきましょう!」とお伝えしました。直感的にこれだ!とビビっときましたし、この軸をいただいたことで自分の想像力がどんどん掻き立てられたのを覚えています。

そのままであることを意識した建築設計へのアプローチ

・・・それぞれ不動産、建築設計のプロとして、どのような場を創っていきたいですか?

土田
僕は常々思っているのは「そのままであること」の大切さです。銚子の素直である形、そのままを表現すること。素直なマインドで形態を創っていく、内なるものを理解し外に表現していく。例えば、都心の街中で閉鎖的なものを創るのは、そのままの良さを出しにくいですよね。
それがここ銚子であった時に必然的に形になっていったという感覚です。また、用途が複数の人たちが使うイベントスペースの素直な形、宿になった時、カフェになった時は少しずつ違います。それが地域性として表現され違和感なく創られるのではないかと思っています。チェーン店のような合理化・最適化されたお店づくりではなく、個の魅力をそのまま捉えて表現することを意識しています。

・・・「そのまま」「素直さ」というのは誰がやるかということも加味されていますか?

土田
「このエリアであれば、こういう人たちが来てくるだろう」と、年齢層、男女など様々なケースを想定し検討します。地域性だけでなく気候なども考えなくてはいけません。

二択で決めるのではなく第三の解を導き出す観点を大事にする

渡辺
自分がやっている事業は不動産なので、土地の活用方法を模索しつつ、土田先生に古い建物を修繕していただきながら、地域の人たちと繋がりを持って新しいものを生んでいきたいと考えています。AとBどちらかを選ぶのではなく、結果としてCを捉えるような感覚です。また、銚子の人だけでなく、他県の方や外部の方と一緒にできる場を創っていきたいと思っています。それがまさにAでもBでもなくCを見出す上で大事な観点だと捉えています。

・・・銚子という街を見た時の魅力をどのように感じましたか。また、それらをどのように表現していきたいですか?

土田
私は海外を旅することが趣味ですが、銚子に初めてきた時に「地球むき出しの場所だな」と強く思った。太平洋に曝され、波も受けるし、風も強いから雨が降れば横殴りになるし、海沿いのゴツゴツした岩場が自然界の強さを象徴している。海から離れるとぐっと高い傾斜になり、丘を上がり水平線を見渡すと地球が丸くなっていることを感じられる。今まで僕が見てきたアイスランドに少し似ているような印象を受けました。
また、50年〜60年前の街の風景、地形がたくさん残っており、全国的に見ても意外と珍しいと思います。今後、日本の向かっていく先を見た時に、どれだけ再開発された地域が残っていくのかと考えました。海外では新市街地でうまくいっているところはほとんどありません。ヨーロッパ全域に言えることですが、新市街地が50年前に破綻し、みんな旧市街地に戻ってきています。こういうことを考えると、50〜60年前の雰囲気が残っている銚子などは今後観光として体験したい人が増えてくると思いますし、外国人も来てくれるという可能性を秘めていると感じます。そういう風景や文化を壊さずに新しく創る、そんな想いを持って表現していきたいです。
ちなみに、外川エリアを周遊すると、この建物を設計したいなと思う物件も多々あり、今度、渡辺さんにマッピングして送りたいと思います。

利他の精神がまちづくりの根底、その上で何よりワクワクすることを追求する

・・・地域に根ざした不動産のあり方、地域発の建築設計からどのように世界全国へ表現していきますか?

土田
渡辺さんと初回打ち合わせをした際に特に感じたことは、非常に利他的な人だなと印象が強かったです。不動産業を捉えた時に自分だけ儲かるというわけではなく、それが街のため、人のためになるのかを常に根底の問いとして持っている。渡辺さんが街に還元していく、還元していくだけではなく自分も楽しんでいく、多分そんなことを考え喜びを感じる人だと思います。この考え方こそ全国や世界に知ってほしいところです。
また、僕は銚子の人ではないですが、銚子の人になった気持ちでここにこういう場所が必要だとか、でもここの風景は壊さないほうがいいとか意識をしながら、街にどのような場所を創るかだけではなく、街の良さを壊さないまちづくりをしていくことがそれ以上に大事だと考えています。

・・・3.9 miles projectのキーワードの一つとして「挑戦」がありますが、土田先生が今後挑戦したいことはなんですか

土田
私も住宅や商業施設や教育施設など様々な用途を手掛けてきていますが、街の再生やまちづくりに挑戦するのは初めてのことです。そのため、僕もこのプロジェクト自体が新たな挑戦になります。建築一つを創るだけでなく、「この建物をどうしたら有効化できますか」と渡辺さんをはじめプロジェクトメンバーの皆さんが想像される用途や新たな挑戦に携われることができる中で、それを銚子にフィットする形でアジャストしていく形をたくさん試すことをしたいです。そのモデルが、別の地域でももしかしたらアジャストできるかもしれません。自分の今後に活かされる挑戦になると信じています。
最後に、銚子に住んでいる人こそ銚子の良さに気付けていないかもしれません。それは外から来た人たちにしか気付けないことがあり、それを地元の人にも気づいてもらってワクワクしていただけるようにしたいです。地元の人も巻き込んで楽しみながら挑戦し色々な場所を一緒に創っていきたいと思っています。